タンゴにインスパイアーされて、女の情念を描きだした作品、『サイゴン・タンゴ・カフェ/中山可穂/角川書店』を読んで、アルゼンチンを舞台にした傑作映画のことを思い出した。
アルゼンチンの片田舎でお妾さんの娘として生まれ、実の父親の葬儀にも本妻側から参列を拒否され、みじめな門前払い。そんな屈辱の生い立ちをもつエヴィータ(マドンナ)がその美貌と人心掌握術を武器に『アルゼンチンの国母』と呼ばれるようになるまでを描いたミュージカル映画が『エヴィータ/アラン・パーカー監督』。
ミュージカル映画で、設定がアルゼンチンですからタンゴのシーンもタップリ。エヴィータが、そのときどきに自分を引き上げてくれる男たちと出会うダンスシーンはとりわけ官能的。
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映画の前半、上昇志向に燃えるエヴィータが「ブエノスアイレス(BUENOS AIRES)に行く」ことを「ビッグアップル(BIG APPLE)行く」と何度も言って気持ちを奮い立たせたあたり、ショービジネスでの頂点を目指してニューヨークに向かったマドンナの過去と重複するものがあります。
もちろんアルゼンチンにおいては、エヴィータの評価は種々語られているのでしょうが、監督のアラン・パーカーはエヴィータの政治的功罪よりも、特異な星のもとに生まれた女の、壮絶な「あげまん人生」に重点を置いて描いています。
さしずめ東のイメルダ・マルコス、西のエヴィータ・ペロンというところか。
中山可穂に興味をもって本屋で探してみたらこんな文庫本を見つけた。

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熱帯感傷紀行
ーーアジア・センチメンタル・ロードーー
中山可穂
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角川文庫
平成14年9月25日
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失恋、スランプ、貧乏と三重苦の
わたしを待ち受けていたアジアの
熱気と混沌。タイ人(男性)に
しつこくナンパされ、かき氷の
誘惑に耐え切れずお腹を壊し、
スマトラの暴走バスに命からがら。
それでも貧乏旅行はやめられない。
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山本周五郎賞作家が綴る楽しくて
ちょっとほろ苦い失恋旅行記。
失恋(彼女の場合は一般的失恋とはちょっと違うみたい)と、スランプによって書けなくなった時期が重なって、「誰かを忘れるために」あるいは「編集者から逃げるように」、東南アジアへと旅立った彼女。
こういう紀行文の常として、失意のどん底から旅先で本来の自分をとりもどし、最後は再生して次なるステップへ、、、となり、読者は著者の再出発に拍手を送るというのがフツー。しかしこの日本の三重苦女流作家は、汚いホテル、ナンパ男に辟易、ボッタクリ運ちゃんとの値切り交渉、地獄の列車移動・・・・と、最初から最後まで罵倒観音という次第で、再浮揚どころかますます沈没したままで旅は突然終わってしまった。
しかし、沈没してしまったように思えた彼女の旅も、
お嬢さんたちよ、旅に出よう。
長距離バスに乗り、屋台でごはんを食べ、水シャワーを浴び、アジアの風に吹かれに行こう。アジアはあなたを鞭打つこともあれば、抱きしめてきれることもある。少しばかりのお金と片言の英語力と好奇心さえあれば大丈夫。この国では見ることのできない光も闇もすべて見せてくれる。
そうなのだ。あんなに楽しいことを、男どもに独占させておく手はないのである。
著者が<あとがき>にこう書いたように、旅先でグジャグジャにされ、再起不能状態に陥ったようでも、そんな自分の境遇を楽しんでいたんですネ〜。
もうひとつ、<あとがき>に、
世にアジア本や貧乏旅行記はたくさんあるけれど、女性が書いたものは意外と少なかったように思う。
と書いてあるけれど、そういわれてみれば、たしかにそうです。女性の場合は貧乏旅行という冒険に出るにはハンディがあるのかもしれません。それでもなお東南アジアの熱波の中に身を置きたくなってくる本です。
そこで、
「貧乏旅行にでかけたいけど・・・ちょっと、、、」
と躊躇している女性のために、女流作家の書いた旅行記としてもう一冊、
『忘れないよ! ヴェトナム/田口ランディ/幻冬舎文庫』
も紹介しておきましょう。
『熱帯感傷紀行/中山可穂』
『忘れないよ! ヴェトナム/田口ランディ』
同年代の女流作家による両作品ともに、最初の発刊当時は話題になることもなく忘れられていたけれど、その後の両作家の活躍で改めて日の目を見て文庫本として復刊されたという背景をもつ作品です。
東南アジアを舞台にしたこの2作品は、貧乏旅行の楽しさ以外にも、
「したたかで逞しいランディさん」
「繊細で傷つきやすい可穂さん」
というような、両女流作家の個性が透けてみえるようで、ぜひ読み比べてほしい作品です。
もちろん、
『エヴィータ/アラン・パーカー』もオススメのビデオです。
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