ピーターの越路吹雪を観てきた
オカミが主席閣下に「見せたくない、聞かせたくない」というモノがあるなら、一市民として「見せたい、聞かせたいモノがある!」とばかりに、日生劇場前に『フリーチベット!』を叫んだのは5月6日のハナシだった。
劇場前交差点で叫んでいたときに、突然現れた装甲車が路上に横付けされ数分後にサッと撤収したことがあったけれど、いまから思えば、あの時間は主席閣下が日比谷公園に入る時間で、デモ隊の掲げる雪山獅子旗を主席閣下の目から遮断させるための作戦だったのでしょう。
あの日、日本青年館集会から代々木公園まで整然と行われたデモと、日生劇場前で日比谷公園に向けた拡声器で周囲を騒然とさせたグループとは全く異なるということを改めて書いておこう。
あのとき、右翼のリードに唱和しながら「この騒音は劇場の中まで響いて、演ってる芝居は台無しだろう、、、」と思ったけれど、デモの日は5月9日初日の芝居のために休業中だったらしい。そんなワケで私のシュプレヒコールが芝居を楽しみにしてきたお客さんの迷惑にはならなかったようで若干は安堵した。
日生劇場で越路吹雪と岩谷時子の「女の友情」を描いた『越路吹雪物語』を観てきた。
越路吹雪(1924-1980)といっても「その人ダレッ?」と言われそうだけれど、シャンソンに日本語詞をつけて歌い、『♪愛の讃歌』のように日本の歌のように定着している歌も多く、越路スタンダードはだれでも一度は耳にしたことがあるハズ。
ここで、「岩谷時子・・・って?」と質問が返ってきそうだけれど、越路吹雪のマネージャー、専属作詞家としての仕事の他に、弾厚作こと加山雄三作品の作詞家でもあり、「♪夜明けのコーヒー/二人で飲もうと/あの人が言った/恋の季節よ」の、一世を風靡したフレーズの作詞家でもあります。
岩谷時子(高畑淳子)と舞台美術家真木小太郎(草刈正雄)が回想する形で、越路吹雪の成長していくサマ、“恋多き女”越路吹雪の私生活を描き出しながらストーリーは展開していきます。
越路吹雪が愛した男として登場した真木小太郎だけど、結婚に踏み切れなかった理由に真木小太郎の長男の存在があったとする場面。その音楽好きの長男というのが後年『♪バラが咲いた』で人気者になったマイク真木だったというセリフに場内ざわめいたりするワケです。
ここで、またもや「マイク真木って?」「『♪バラが咲いた』って?」という質問が返ってきそうだけれど、日生劇場の当夜のお客は登場人物の情報にリアルタイムで接してきた人たちだから、そんな解説が必要ありません。つまり、私も含めて、チャンジー・チャンバーでほぼ満席だったということ。たぶんこの人たちにとっての越路吹雪は西洋のモダンな香りを運んできてくれた歌手だったのでしょう。
この芝居の成功は何といっても越路吹雪役のピーターこと池畑慎之介のはまり役に尽きます。よくぞこれほどまでにと感心するほど、完璧に越路吹雪の所作を研究して、越路吹雪になりきって越路吹雪を演ずるにはこれ以上の役者はいないことに納得。
ただし、生演奏至上主義の私としては、ピーターの越路吹雪メドレーはカラオケなんぞではなく、ビッグバンドをバックにド派手にやって欲しかったという不満が残るワケです。
とは言うものの、宝塚歌劇団のスターだった越路吹雪と、社員として出会った岩谷時子の友情を描いたこの芝居は、正に昭和日本歌謡史そのものを描き出しているといっても良いでしょう。
やはり私もチャンジーだということだな。
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(「越路吹雪物語」5月28日まで 日生劇場にて)
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