シェムリアップは命がけ
カンボジア北部シェムリアップの遺跡群を訪れると、最初に目につくのがこの立て看板。つまり「イヌ入ルベカラズ」と「自己責任デ登ルベシ」。かつては「地雷注意!」の文字もあったんだろうけれど、現代のカンボジアで観光客が足を踏み入れる場所からの地雷は撤去されたはずです。
パックツアーのルートから離れて、近郊の遺跡を回ろうとするときに必ず目にするのが、この「自己責任デ登ルベシ」の看板。カンボジアの遺跡は全て天にも届かんばかりに積み上げた石でできていて、それは正に時の王様が、愚かにも下々のヤカラを排除して「天におわす神」を独り占めしたい意図を表したようにも見えるのです。
シェムリアップ郊外にプノン・バケンという丘があって、ここは360°パノラマでシェムリアップを望める夕日観賞の地としても有名な場所。ご来光を仰ごうという観光客が毎夜訪れて年がら年中「初日の出セッション」が繰り広げられることになります。
まだ明るいうちから、テッペンに場所を確保しようという観光客が狭い場所にひしめきあって太陽の落ちるのを待ちます。
夕日に変わりはなさそうだけれど、アンコール・ワットという特別な場所で見る夕日だと思うと美しさも倍加された気分(飛び立つ飛行機と夕日が噛み合なかったのが残念)。
恐怖はこれから訪れます。
まだ真っ暗闇にならないうちにと、慌ただしくプノンバケンの丘を下ろうとすれば、急な階段に観光客が押し寄せ、皆命がけの脱出行。
何しろ、手すりなんぞありませんから、足下をシッカリと固め、ある人はソロリソロリと壁伝いに、ある人は逆向きに、階段に手をつきながら尻を先にしての恋人には見せられない姿。一歩踏み間違えると人間のアタマが固いか、石が固いかのセカイになってしまうのは皆分かっているから、格好なんぞ気にしていられません。
間違っても上から人が降ってこないことを願うだけです。
イヤハヤ、やっとこさ下り切ったと安堵し振り返れば、必死の形相の人々が滑稽で笑えます。さっきまで自分もあんな顔をしていたんだなぁ。
そんなこんなしている間に太陽は一挙に沈み切ってしまっての真っ暗闇。街灯もない坂道を人の流れにのって麓まで辿り着き、バイクタクシーのワット君の出迎える顔を見たときはホッとしてしまい、思わず抱きしめたくなったぜプノン・バケン。
日本だったら直接登坂なぞあまりにも危険すぎて許可されないような設定の遺跡群も、ここカンボジアではまったくフリー。私たち日本人がどれほど過保護に育てられているのかがよ〜くわかる光景でした。
こんな一枚の看板のもと、老若男女命がけで遺跡巡りを楽しんでいます。
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バイクタクシーのワットくん。
(シェムリアップにて)
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